ダイオキシンやPCB等の塩素化合物、特にその水酸化物の幾つかは、哺乳類の甲状腺系に影響を与えることが良く知られている。これらの化合物は血漿中の甲状腺ホルモン結合蛋白質のひとつであるトランスサイレチンに強く結合する。また、本研究室において、トランスサイレチンが合成女性ホルモンであるジエチルスチルベストロールや幾つかの農薬類にも結合することを明らかにしてきた。これらの化学物質が、甲状腺ホルモンの細胞への取り込みに影響を及ぼすのか、また核内受容体へも親和性を示すのか検討を行った。血清と化学物質存在下でウシガエル赤血球を[^<125>I]T_3と培養すると、トランスサイレチンへの[^<125>I]T_3結合が化学物質によって阻害される結果として、赤血球への[^<125>I]T_3取り込みが増大した。また、ニワトリやウシガエルの核内受容体のリガンド結合部位を用いて、化学物質と[^<125>I]T_3の競合を調べた。しかし、受容体はトランスサイレチンほど化学物質を認識していないことが明らかとなった。これらの結合蛋白質への甲状腺ホルモンや化学物質の親和性と構造の間にある程度の相関が認められた。上記化学物質は、核内受容体よりもむしろトランスサイレチンに結合することで甲状腺系を撹乱するものと思われる。今後、生体内において血清蛋白質に結合した化学物質の行方を追及することは重要であろう。
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