研究概要 |
ダイオキシンやPCB等の塩素化合物、特にその水酸化物の幾つかは、哺乳類の甲状腺系に影響を与えることが良く知られている。これらの化合物は血漿中の甲状腺ホルモン結合蛋白質のひとつであるトランスサイレチンに強く結合するが、大型哺乳類では別な甲状腺ホルモン結合蛋白質であるチロキシン結合グロブリンが血漿中の主要なホルモン結合活性を担うため、その影響は他の脊椎動物よりも小さいと思われる.そこで、本研究ではニワトリやウシガエルの精製トランスサイレチンの甲状腺ホルモン結合、ホルモンの赤血球への取り込み、にどのような化学物質が影響を及ぼすのかを検討した。両トランスサイレチンは、合成女性ホルモンであるジエチルスチルベストロールを甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン,T_3)より2-50倍強く認識した。また、農薬類のイオキシニルやペンタクロロフェノールも強くトランスサイレチンに結合した。スキャッチャード解析より、これらの結合様式はT_3と競合的であることが判明した。防ダニ剤のディコフォルは、トランスサイレチンのホルモン結合を活性化した。しかし、今回調べた化学物質はいずれもニワトリやウシガエルの甲状腺ホルモン受容体のホルモン結合活性にあまり影響しなかった。よって、上記化学物質は、生物種特異的に主にトランスサイレチンに結合することで甲状腺系を撹乱するものと思われる。
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