研究概要 |
有機スズの1種であるトリメチルスズ(TMT)の1回経口投与によって、海馬CA3野の錐体細胞が選択的に脱落するが、このときにCA1野でもやや程度は軽いが細胞障害があること、歯状回分子層では苔状線維の発芽(sprouting)を認めた。この変化は副腎摘出によって血中コルチコステロンを枯渇させると著明に悪化し、一方メチラポンをTMT投与初期のみに投与して一過性にコルチコステロン分泌を抑えると、CA1>CA3での細胞死、発芽がともに抑制され、同時に学習障害も改善されることを発見した。すでに我々はTMT投与後細胞死の前に一過性に血中コルチコステロンが上昇することを認めており、今回の結果は、このHPA-axisの活性化が細胞死と学習障害の引き金になることを示唆する一方、永続的な副腎機能の廃絶は海馬の神経毒耐性を低下させることを意味する。この効果は海馬ステロイドホルモン受容体を経由すると考えられるが、さらに受容体作動薬を用いた実験により、そのサブタイプのうちTypeII Glucocorticoid Receptorsを介する効果であることを見出した。また、免疫担当細胞の関与を見るためにIL-1 α/β,TNF-αの発現を検討しているが、IL-1活性化がHPA-axis活性化に先立つこと、IL-1 αがミクログリアで最初に、続いてIL-1 βがアストログリアで発現することを認めた。次年度以降は、この神経-免疫-内分泌相関が海馬における細胞死や学習記憶機能にいかに関係するかについて、さらに検討を進める予定である。
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