我々は、日本における内分泌撹乱物質の胎児への移行・蓄積状況について検討し、さらに、日本人の精子形成状態に関する検討を始めた。本研究は、すでに京都大学医学部医の倫理委員会の承諾を得ている。 1、内分泌撹乱物質のヒト胎児曝露に関する研究 日本人の臍帯および臍帯血中の、内分泌撹乱物質と疑われる化学物質の分析を行った結果、ダイオキシン類、PCB類、DDT類、ヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)、クロルデン類、重金属に加え、ビスフェノールAやノニルフェノールが検出された。次に、第一子を生んだ時の母親の年齢とその時の臍帯中の内分泌撹乱物質の濃度の関係を調査した。その結果、PCB類やDDT類では、母親の年齢が高くなるにつれて、臍帯中から検出される濃度が高くなる傾向が認められた。このことは、初産が高齢化している現在の日本では、胎児における蓄積性の高い内分泌撹乱物質による曝露が、複合汚染の面も含め、深刻化していると言える。 2、日本人検死体の精巣に関する調査・研究(精巣重量及び精子形成状態に関するretrospectiveな調査) 日本において、「日本の成人男性の精子形成状態は過去に比べて本当に悪化しているのか?」といった疑問に答えるため、検死体のデータを用いて日本人の精巣重量及び精子形成状態の経時的変化に関するretrospective studyを行った。その結果、以下のことが判明した。1)精巣重量がピークに到達する年齢に若年化傾向が認められる。2)ピーク時の精巣重量は出生年で1960年頃まで上昇しているが、その後やや下降し始めている。3)精巣重量のピーク時からの下降する速度が速まっている。4)精巣重量の立ち上がり(onset)年齢に若年化傾向がみられる。これらの変化が内分泌化学撹乱物質に起因するかどうかは現段階では不明である。しかしながら、日本人の生殖能力に変化が起こっている可能性が見出されたことは、今後、本問題を考えるとき、非常に意義があると言える。
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