近年、内分泌攪乱物質と呼ばれる一群の化学物質がヒトおよびその他の生物の内分泌系を攪乱することにより、生殖の異常や癌の発症などの原因となっていることが問題となっている。これらの化学物質は、生物に本来備わっているホルモンの作用を模倣して働くため極微量で生態系やヒトの健康に悪影響を与える可能性がある。従って、生態系の保全やヒトの健康を正常に保つためには内分泌攪乱物質の環境中への放出を管理するとともに、すでに放出されたこれら物質のモニタリングを行う必要がある。本課題では、内分泌攪乱物質の新規試験法の開発を目的に、簡便にホルモン様作用を測定できるトランスジェニックメダカの作製を行なってきた。 内分泌撹乱作用のうちエストロゲン作用に着目し、エストロゲン刺激に応じてGFP(Green Fluor escent Protein)を発現するトランスジェニックメダカの作製を試みた。昨年度までに、GFP遺伝子上流にエストロゲン応答配列(ERE)を挿入したレポーターDNAを構築し、メダカ受精卵へのマイクロインジェクションを行い、蛍光顕微鏡下GFPの発現を調べた結果、メダカがもともと持っている自家蛍光が問題となることが判明した。そこで、本年度は自家蛍光の少ないメダカの突然変異体IfBRを入手し、これを用いて検討した。まず、すべての臓器で発現することが期待されるCMVプロモーターの下流にGFP遺伝子を持つプラスミドpEGFP-C1をメダカに導入し、蛍光顕微鏡下GFPの発現を調べたところ、コントロールに較べ明瞭なGFPの発現が認められた。しかし、EREの下流にGFP遺伝子を持つレポーターDNAをメダカに導入しても、エストロゲン依存的なGFPの発現は認められなかった。これは、外部から導入された遺伝子はメダカ染色体上のランダムな位置に挿入されるため、その挿入位置によって発現が抑えられるためと考えられた。今後、出来るだけ多くのトランスジェニックメダカを創出して、本研究目的に適した個体を選別する必要がある。
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