研究概要 |
女性ホルモン(エストロゲン)は、男性ホルモン(アンドロゲン)からアロマターゼの酵素作用を受けて生成する性ステロイドホルモンである。このホルモンは女性生殖器官(卵巣,子宮,乳房)等の2次成長に重要な役割を果たす事が知られているが、男女共に脳においてα及びβと呼ばれる受容体の存在が証明され、脳におけるエストロゲンの役割の解明が注目を集めている。男女の言動の違いは、上述の生殖器のみならず、脳におけるこれらのホルモンの役割が違う可能性が極めて強いからである。現にラットでは、雄脳と雌脳の形態学的相違点が明確に証明され、男女の行動差等の解明が待たれている。我々は、上記の女性ホルモンであるエストロゲン合成酵素の遺伝子を選択的に破壊した雄及び雌のKOマウスを用い、エストロゲンの脳における役割を調べると同時にこのホルモンの攪乱物質の検出計開発する基礎研究を行った。その結果、1)ES細胞からスタートして選択的にEXONIを破壊し、何代もの世代育成を行い、雄及び雌の純系マウスを確立した。雌のKOマウスはエストロゲンがない為、2次的に卵巣及び子宮に変態・脱落が起こるが、生後直ぐにエストロゲンを補充するとこの様な現象は認められない。しかし、攪乱物質を同時投与するとエストロゲンの作用が妨害され、退行変成が始まる。2)雄のKOマウスではaggressionを全く欠如しており、成長した両者を同じcageに入れても相手を排除するaggression機能を失っている。しかし、生後間もなくからエストロゲンを補充してやると、完全に野性タイプと同じくface to faceのaggressionが始まる。これにホルモン攪乱物質を入れると、再びaggressionがなくなりKO動物に近付いてくる。3)雄のKOマウスには性行動異常があり、野生株の発情した雌に掛け合わせても追いかけ回すだけで、正しい性行動ができない。だが、生後すぐにエストロゲンを補充してやると100%性行為が成立し、雌は妊娠する。4)エストロゲンの補充開始が生後一週間後に行われると効果はなく、ホルモン攪乱物質の検出計とする事はできない。5)その他、KOマウスでは食欲亢進・骨粗鬆症等が見られるが、何れも早期のエストロゲン補充によって防止される。それがホルモン攪乱物質によって阻害される。6)in vitroでエストロゲン合成酵素のRNAの引き算を行い、エストロゲン補充前後のKOマウスのRNA発現に顕著な相違を認め、現在、その遺伝子を同定し、in vitroでのホルモン攪乱物質の化学的定量法の開発を試みている。 以上の様に、本研究は雄、雌の脳におけるエストロゲンの役割を解明する第一歩を踏み出したものであり、ホルモン攪乱物質のbioassay計を開発したものと言える。
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