研究概要 |
精巣においてspermatogoniaの増殖・分化に関わり,受容体型チロシキンナーゼファミリーに属するprotooncogeneであるc-kitが,精子形成に及ぼす作用を検討するために,ホモおよびheteroのc-kit mutantマウスを用いてgerm cellにおけるc-kitのmRNAの発現をRT-PCRで分析し,さらにc-kit抗体CD117を用いてマウス精巣の免疫組織化学的検討を行った。精子形成過程での障害の分化stage,とくにspermatogoniaの減数分裂機構に関わるc-kitの関与を検索した。検討に供した精巣は生後10日および11週齢マウスC57black(wild type+/+),細胞膜貫通部を含む78個のアミノ酸の欠落がある突然変異のヘテロW/+,790番目のアミノ酸の点突然変異のヘテロWv/+,機能喪失性突然変異遺伝子を2個持つW/WVから摘出した。これまでにflow cytometryによる精巣細胞分析結果では精細胞の成熟比率を検討したが,加えてwild typeおよびhetero mutantのマウスにおいて精細胞自体にc-kit m-RNAの遺伝子発現を検出し,さらに免疫組織学的にLeidig細胞に強く,そして精細管内のspermatogoniaに一致して中等度のc-kit発現を認めた。このことから精細胞におけるc-kitの産生が証明された。一方,W/WV homo mutantにおいては精卵管の欠失とc-kitの遺伝子およびタンパク発現が僅かに認められるにとどまった。生後10日および11週齢ともにW/WV mutantマウスで精子形成の強い抑制とmaturation arrestの状態が示された。c-kitとその遺伝子発現の結果から,精巣において産出されるc-kitは精子形成過程の初期段階に深く関与し,近年,内分泌撹乱化学物質や他の合成産物によってその発生の増加が指摘されている男性不妊とくにmaturation arrestの発生に関わる因子であることが示唆された。現在,アドリアマイシン微量投与による造精抑制系動物を作製し,ポリフェノールおよび活性酸素のscanvenging効果による精巣の造精機能障害の抑制を検討するとともに,ヒト男性不妊における精子形成過程でのc-kit発現について検討中である。
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