研究概要 |
ダイオキシンをはじめとする環境ホルモンは、その強い発癌性や内分泌攪乱作用により、社会的、生物学的に重大な関心事となっている。ダイオキシン受容体(AhR)は、熱ショックタンパク質hsp90と複合体を形成して細胞質に存在するが、ダイオキシンが結合すると核内へ移行して種々の遺伝子発現を誘導することにより、ダイオキシンの毒性を仲介する。すなわちAhRの細胞質-核間移行制御機構の解明は、AhRの作用発現調節機構を明らかにするために重要である。本研究では、green fluorescent protein-AhR融合タンパク質発現系を構築し、AhRの核-細胞質間移行制御機構および細胞内クロストークについて、以下のことを明らかにした。 1.Hsp90阻害薬は、リガンド依存性AhRの転写活性化作用を阻害することが従来より知られている。しかし、本研究ではhsp90阻害薬自体にAhRの核内移行および核外移行促進作用があることを明らかにした。Hsp90阻害薬によるAhRの核内移行は一過性であり、核内に移行したAhRは遺伝子の転写活性化作用を発揮せず、速やかに核外へ移行した後、proteasomeで分解されることが示唆された。 2.AhRの核内移行および核外移行に対する分子シャペロンおよびコシャペロンの作用を検討した。AhRのリガンド依存性核内移行は、hsp90,hsc70,p60およびhsp40の細胞内および核内過剰発現によって影響されなかった。しかしリガンド除去後のAhRの核外移行はこれらの分子により阻害され、AhRの核内局在は、核内hsp90,hsc70,p60およびhsp40によって制御されていることが明らかになった。AhRはこれらの分子シャペロンおよびコシャペロンを介して他の核内受容体、情報伝達系タンパク質とクロストークしていることが示唆される。
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