ビスフェノールA(BPA)はポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂などの原料としてひろく利用されているが、エストロゲン受容体(ER)に低親和性ながら結合してエストロゲン活性を持つことから内分泌撹乱物質のひとつとして知られている。オーファン受容体であるステロイド・ゼノバイオティク受容体(SXR)はERと同じ核内ホルモン受容体に属し、肝におけるステロイドホルモン、脂肪酸、さらに薬剤などの化学物質の代謝に重要な酵素であるチトクロームP450-3A4(CYP3A4)の転写調節をおこなっている。CYP3A4の酵素誘導をおこす種々の薬剤や化学物質がSXRにリガンドとして結合し、CYP3A4プロモーターのゼノバイオティク応答配列上(XRE)でCYP3A4の転写を活性化する。我々はヒトSXR cDNAとCYP3A4の上流域を組み込んだルシフェレースレポーター、(XRE)-CYP3A4-LUCをヒト肝臓由来のHepG2細胞へトランスフェクトしレポーターアッセイをおこなって、BPAなどの内分泌撹乱物質がヒトSXRを介して転写を活性化するかどうか検討した。BPAやフタル酸化合物(DEHP)によりCYP3A4の転写が活性化された。マウスのSXRではBPAは転写を活性化しないことが知られているが、この理由としてヒトとマウスSXRのホモロジーが約70%と低いためと考えられた。なお哺乳細胞を用いた2ハイブリッドアッセイによりBPAがSXRと核内受容体のコアクティベーターであるSRC-1との結合を促進したことから、BPAがリガンドとしてSXRに結合しSRC-1との結合をリクルートする考えられた。以上より、BPAやDEHPはエストロゲン受容体のみでなくヒトSXRのリガンドとしても作用しステロイドホルモン、脂肪酸、さらに薬剤などの化学物質の代謝に影響を与える可能性が示唆された。
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