本研究の目的は、インドにおいて「唯識」思想を学び多くのサンスクリット原典を持ち帰った玄奘が、世親の『唯識三十頌』に対する諸説を合揉して作った『成唯識論』の本文の「サンスクリットへの還元」(還梵)を行うことである。本論は漢訳で10巻に及ぶ大部なものであるから、交付希望期間ではそのうちの第1巻と第2巻とに限定してその厳密な還梵を試みることにした。本年度で行った研究作業は次のごとくである。 (1)本研究は、最終的には10巻全体の還梵を目指しているが、それを視野に入れて、抽出した漢語語彙とそれに対応するサンスクリットとの対照表をデータベースすることにした。そのためにまずデータベースの体裁を検討しそれを決定作成した。 (2)それに基づいて、これまで『成唯識論』第1巻の3分の1程度の語彙の抽出とそれらの還梵作業をカード上で行った。 (3)還梵に際してはサンスクリット原典が残存する『安慧造釈・唯識三十頌釈』『世親造・中辺分別論釈』『瑜伽師地論』等を参照した。 (4)カード作りと平行して、随時、パソコンによってカードからデータベースへの打ち込みを行った。 (5)以上の作業の成果を踏まえて、『成唯識論』本文の最初の部分からの還梵を現在試みている。
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