1.今年度は韓国に渡航し成均館大学図書館・東亜学術研究院、韓国精神文化研究院にて、関連する文献の調査を行い、国内では入手の困難な書籍、学術論文など多くの資料を持ち帰った。また、成均館大学の東アジア関係専攻の教員・院生を前に日韓儒学に関する研究発表と意見交換を行った。 2.『高麗名賢集』「牧隠文集」の読解をほぼ完了し、李穡の「天人無間説」が、後の李退渓の「敬」の思想と関連を有するという確信を持つに至った。管見によれば李穡研究が皆無である日本においてはおろか、韓国にても思想史上の重要性に比して李穡研究の成果は乏しく、まして退渓との関係に本格的に論究したものは今のところ見当たらない。この問題は本課題の研究範囲を逸脱するので、今後の課題として残さねばならない。 また、安〓-白頤正-李齋賢-李穀の流れについて、彼らの著作ならびに後の研究成果によって検討したところ、原典資料が少ないということもあるが、やはり草創期ということもあり独創性には乏しいようである。朝鮮朱子学の本格的な発展は李穡に始まるとみてほぼ間違いない。 3.本格的な研究成果の公表には至っていないが、丸山眞男『日本政治思想史研究』(「英語版への序文」)に、朝鮮朱子学への考察を欠いたことをもって自らの致命的欠陥としていることに注目し、拙論「政治化された思想史」を著して、丸山のスキームが朝鮮思想史に妥当しないことに論及した。 4.以上の作業と並行して、資料のデータベース化、文献索引の作成を継続して行った。
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