今年度の研究は以下のような成果をあげた。3年間にわたる研究の総括として研究論文をまとめるために、研究計画にそって、人間と自然との関係を最も直接的に反映している現代の環境芸術に関する考察をもとにして、自然哲学思想と芸術論をめぐるロマン主義思想の再検討をおこなった。また、実際の作品を自分の目で見ることや作品制作の現場に立ち会う機会をできるだけ多く持ち、環境美学の構想を具体的な面で検証していくことにも意を注いだ。さらに、最近とりわけドイツで盛んになってきた「自然についての美学」、「生態学的美学」といった、自然について考察すろ美学や哲学の文献に接することで、自らの構想である環境美学の論理との異同を確認することもおこなった。 これまでに得られた研究の成果を、「自然哲学としての環境美学の試み-環境芸術からのアプローチ-」と題した論文にまとめ、日本シェリング協会編の雑誌「シェリング年報'01第9号」に発表した。将来の人間と自然の関係を考えるためのモデルとしての環境美学を打ち出すことを目標とした論文の概要は以下の通りである。「自然とはなにか?」という自然哲学の根本的な問いを生態学的危機の状況の中で再び真剣に考えなければならない現代において、人間と自然との関係を尖鋭的に示す環境芸術は、さまざまな具体的な方策を作品の中で示し始めている。環境問題を引き起こすことになったさまざまな問題点を切り取り明らかにするものだけではなく、壊れてしまつた環境を実際に治癒するものまで、多種にわたる現代の環境芸術作品はわたしたちの向かうべき未来をあざやかに指し示しているのである。
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