研究の最終年度である本年度は、前年度の研究成果として得た知見としての、「電子媒体のコミュニケーション(CMC)においては道具的機能が高まる」という研究結果に対して、言語を越えての普遍的特性が垣間見られるかの検証に重きを置いた。そして、その検証策として、英語によって運営されている多様な電子チャットサイトからのデータ収集をとりおこなった。得られたデータの分析に際しては、Brown and Levinson(1987)によるポライトネス理論における分類方法を援用し、英語の母国語話者・非母国語話者、国籍、性別、年齢、英語力などの属性を中心に、特徴を抽出しながら解析していった。分析の結果、bold on record(あからさまに)というカテゴリーに当てはまる表現が著しく出現している点が判明した。このことは、電子媒体のコミュニケーションにおいては、やはり言語を越えて、依頼および要求表現が容易となる性質を帯びていることの証左となる。電子媒体のコミュニケーションでは面子(face)が隠れることが容易なことから、社会的パラメーターとしての負荷値が極端に低下していることがその主因となっているようである。調査対象の中にときおり垣間見る非母国語話者の日本人の場合には、前述した傾向から外れているケースが多々見られたが、これは、「英語力」が自然と開示されるために、外国語に不慣れな日本人にとって、力関係(power)という社会的パラメーターが別の要因として働く例外的なケースと考えられるようである。今後さらに発達を遂げようとする電子媒体のコミュニケーションにおいては、担当直入な表現にともなって引き起こる発信者と受信者の間での誤解を回避するための相互感性伝達システムとして、新たな文字コードシステムの構築が求められる。
|