本研究は平成12年度および13年度の2年間を研究期間とするため、本年度は研究成果の取り纏めとして、論文執筆、文献目録作成、そしてこれらの成果の公刊を行なった。 南・東南・東アジアの食文化に関する文献の検索については、本年度は邦文雑誌文献と、図書館収蔵分英文書籍のデータを収集した。そしてこれらを、前年度に収集した図書館所蔵分邦文書籍のデータと合せて整理し、文献目録を作成した。その結果、当該アジアの食文化に関する書籍は、図書館、特に大学図書館に、多くは所蔵されていないことが判明した。これはアジアの食文化・食生活が充分に認知された学問の領域でないことを示していると思われる。 食文化の具体的な研究については、収集した各地方の料理書、料理文化関係書を活用して考察を行なった。すなわち南・東南・東アジアに広範に広がる漬け物であるアチャールについてこの漬け物の名称の分布と各レシピの比較、・分析を行ない、次の仮説を提示した。アチャールについてはその分布範囲の中にインド洋マスタード酢漬け文化圏、および南シナ海甘酢漬け文化圏を想定することが可能であり、これらの文化圏はそれぞれインド洋交易圏、南シナ海を中心とした中国人交易圏とオーバーラップすると考えられる。またこの2つの漬け物文化圏のインターフェイスはインドネシア、マレーシア海域であることから、先の2つの交易圏のインターフェイスもまたこの一帯であると推測される。さらにアチャール以外にもサンバルと醤、東南・東アジア各地に散見されるチャンプルーなど、いくつかの料理を料理人や材料などの移動とともに比較分析することで、アジア交易論に関する仮説に対し、補助史料を提供し得るものと考える。
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