今年度の研究は理論的動向の整理と友愛組合と国家福祉の関係を中心とした実証研究の二側面について進めた。 前者については、「『福祉の複合体』論の意義と課題」と題して、1999年9月のヨーロッパ構造史研究会で報告した。その要点は、多様な福祉の担い手の機能と相互関係を明らかにして福祉システムの総合性を問題にする「福祉の複合体」論が、歴史理論としても、国家論への視座(階級支配の「道具」としての国家論の克服)、社会論への視座(近代的「個」と「階級」を基礎とした社会論の克服、「中間団体」論の展開)、時間論への視座(歴史の連続性と断続性のバランスある叙述)という三つの側面において可能性を持っていることにあった(理論的動向の詳細な検討は、2000年10月の社会政策学会全国大会で報告し、活字化する)。また、近年この議論を基礎に続々と新たな成果を公刊しているP.セイン教授の主著を共同で訳出し、『イギリス福祉国家の社会史』(ミネルヴァ書房:報告者、第2、7章、付論、資料担当)として近刊予定である。 後者の実証研究では、主としてAncient Order of Forestersという全国的友愛組合の1890〜1914年の『執行委員会季刊報告書』、月間機関誌Miscellanyを分析し、国家的な老齢年金や健康保険の導入の前提には、こうした友愛組合などの「中間団体」が作り上げていた非政府・非営利の相互扶助的社会保障制度があったこと、つまりそれらこそが歴史的・制度的・観念的に「福祉国家の下部構造」を担ったことの概観を、中央組織レベルで明らかにした。この成果は2000年5月の日本西洋史学会のミニ・シンポジウム「福祉国家の社会史」で報告し、活字化する。また、地域研究では1908年老齢年金法の施行過程における地方団体の役割について、ロンドンを対象とした研究成果がほぼまとまっているので、近日中に投稿予定である。
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