今年度は、まず雑書の全体のおおまかな領域を見定め、それに応じて各分野の専門にあわせ、大学院生や若手の研究者を中心に研究会を組織し、月一回程度の研究会を継続的に開催した。領域があまりに多様で茫漠としているため、ひとまず兵法に焦点をしぼり、内閣文庫の資料を中心に、体系的な目録、分類のありようを分析し、個別資料の翻刻や注釈など基礎的な作業をはじめた。ことに弓矢、乗馬などを今年度は主対象にし、それにあわせて、関連する資料の調査を行った。 なにぶんにも資料が膨大である上に、各資料の基礎的な位置づけからして難しく、とりわけ兵法の場合は、すでに中世後期には各流派に分離され、多方面に展開しており、分野も時代も多岐にわたっており、全容を掌握するにはいたらず、多くの課題が残された。しばらくは手探りの状態で続けるしかなさそうであるが、中国渡来の幻の兵法書とされる張良一巻書を中心にした言説研究も、他分野にまたがる興味深いテーマとして浮上してきた。 また、兵法の分野を深めると同時に、他の領域にもふれる必要性を感じ、医学書や本草学などにも手をつけだした段階である。それぞれの専門領域においてはそれなりの研究が積み重ねられており、おおきな成果があげられているが、あまりに個別的で細分化されており、それらの諸学と文学研究とのすりあわせや他の学芸への応用、関連性の究明など、さまざまな方法や手続きがますます必要になってきていることを痛感させられた。 今年度は文字通り研究の萌芽的な立ち上げにとどまり、いまだ前途ほど遠しの感が強いが、めざすべき課題はかなり鮮明になってきている。基礎的で地道な資料調査と収集、研究会の定期的な継続をしばらく続けるほかないだろう。
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