本年度は、最終年度に当たるので、本科研活動のために組織した雑書の研究会で継続して輪読している『兵法秘術書』をひとまず読み終え、一区切りとした。しかしながら、昨年入手できた写本を底本に変更することになったため、校異なども全面的に組み替え、再点検する必要が出てきた。また、注解も不十分な点が多く、この面でも科研終了後の継続的な課題となる。また、金沢文庫からも新出写本が見つかったため、これも検討材料になり、比較すべき伝本が当初にくらべてずいぶん増えてきた。作業はより煩雑になったといえるが、研究の精度をより高めることができた。語釈も他に用例を見出しにくい不明の専門語彙が多く、研究状況の未熟さがきわだつことにもなった。これも今後の課題である。中世兵法書の中核ともいえる『訓閲集』の総合的な研究をさらに推進し、それとあわせてみていく方策が必要であろう。 研究会では『兵法秘術書』の注解にとどまらず、雑書に関する各自のテーマ発表を行った。およそ本草学、医学書、料理書、立花、首実検、胎内五位図、馬術書等々、多彩なテーマが出そろった。それぞれの個人研究のテーマに応じて新資料と新知見があいつぎ、いまだ試掘段階を抜け出てはいないが、今後の展開がおおいに期待される。これも科研以後の主要な研究活動の一環となるだろう。次の段階では原稿化して読み合わせを行い、もう少し検証ないし補強してから、『兵法秘術書』の注解とあわせて、出版する予定である。
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