発話は、命題としての意味とそれを伝達する話者の態度(命題態度や談話態度など)とを共に表現する。後者は一般に「モダリティ」と総称されるものであるが、その表現形式と意味・機能は各々の言語で様々な複雑な体系を織り成しており、その体系を言語間で比較・対照することは究めて困難とされ、これまでの対照研究や言語類型学研究、また、第二言語習得研究や中間言語研究においても、充分に進められていない領域である。本研究は、このモダリティの領域の対照研究がなぜ困難であるかを考え、方法論的にも理論的にも言語間の対照を試みながら、語用標識'pragmatic marker'(談話標識'discourse marker'などを含む)の語用論的意味領域における日英語の対照研究を展開することを目的とする。初年度は、この領域における理論そのものの対照研究と分析の枠組みの対照研究に着手した。同時に、形式名詞や条件表現などを用いる語用標識の事例研究を進めた。また、本研究の内容に連動した「認識のモダリティ」というテーマで、国立国語研究所国際シンポジウム『認識のモダリティとその周辺-日本語・英語・中国語の場合-』の企画(佐々木倫子他)に協力し、パネリストの一人として、本研究の成果の一部を発表した。論文の題目(同国際シンポジウム予稿集、及び口頭発表)は、「認識のモダリティーと"その周辺"-文法化・多義分析の観点から-」であった。この小論では、認識的モダリティと"その周辺"にみられる言語現象(Deontic Modality等)との関連の有り様に関して、特に日英語の事例から幾つかの問題の所在を整理しながら仮説を提示し、モダリティの言語間対照研究のための指針を提案した。
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