発話は、命題としての意味とそれを伝達する話者の態度(命題態度や談話態度など)とを共に表現する。後者は一般に「モダリティ」と総称されるものであるが、その表現形式と意味・機能は各々の言語で様々な複雑な体系を織り成しており、その体系を言語間で比較・対照することは究めて困難とされ、これまでの対照研究や言語類型学研究や中間言語研究においても、充分に進められていない領域である。本研究は、このモダリティの領域の対照研究がなぜ困難であるかを考え、方法論的にも理論的にも言語間の対照を試みながら、語用標識'pragmatic marker'(談話標識'discourse marker'などを含む)の語用論的意味領域における日英語の対照研究を展開することを目的とする。平成12年度(二年次)は、この領域における理論そのものの対照研究を継続しながら、形式名詞や条件表現などを用いる語用標識の事例研究を進め、国際語用論学会などで発表した。また、多義分析・文法化の観点から、以下三つ問題を明確にし、研究の枠組みを示し、研究を進めた:(1)命題的意味とモダリティーとの関連、(2)Deonticモダリティーと認識的モダリティーとの関連、(3)命題に対する話者の態度を表す機能と発話に対する話者の態度を表す機能との関連。昨年度末に国立国語研究所国際シンポジウム『認識のモダリティとその周辺-日本語・英語・中国語の場合-』においてパネリストの一人として、本研究の成果の一部を発表したが、本年度はその成果を「認識のモダリティーと"その周辺"-文法化・多義分析の観点から-」という論文として刊行した。本稿では、認識的モダリティと"その周辺"にみられる言語現象との関連の有り様に関して、三つの切り口を示し、特に日英語の事例から幾つか問題の所在を整理しながら仮説を提示し、モダリティの言語間対照研究のための指針を提案した。
|