本年度は、当初予定では2期間ゲームモデルによる、生産財所有権の保護を目的とする国家成立の分析を行なうこととしていたが、研究の進捗著しく、平成12年度に予定されていた、無限期間モデル(世代交代モデル)によるn人非協力ゲームに拡張した分析にまで到達することができた。このフレームワークで、国家成立の前段階である自然状態における、投資財(資本)を用いた生産の可能性について、環境パラメーター(人口、生産技術等)との関係においてモデル分析を行なった。なお、自然状態は、私的所有権を前提としないホッブス的なそれを仮定し、所有権成立については、institutional arrangementを用いた。また、解は、ナッシュ均衡を用いた。 主要な結論は以下の通りである。 1)自然状態において、全ての期において、全員が投資を行なう解は存在しない。 2)自然状態において、投資の収益率が、人口と生産技術によって決定されるある水準異化であれば、この経済では投資は行なわれない。一方、この水準以上であれば、この経済では、全員が投資を行なう期とだれも投資を行なわない期が交互に現出する。 3)、投資の収益率が一定水準以上であるときには、投資の収益に関する所有権が全員一致原則の下で成立する。この水準以下のときには、強制力を伴う国家が成立する可能性が生じる。 これらの結果は、従来の静学モデル(one shot game)による私的所有権(財産権)成立に関する研究結果とは異なるものであり、投資財(資本財)の所有権成立が、一般の剤の所有権成立とは異なった条件の下で成立するものである可能性を示唆するものと思われる。
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