本年度の研究は、前年度に構築した、投資を含む世代交代モデルのフレームワークを用いた、所有権保護を目的とする国家の内生的な生成のゲームモデルを基に、このモデルを拡張し、より一般的な結論の導出を企図した。拡張に際しては、N.Wallace教授(Penn.State Univ.)、Y.J.Yoon教授(George Mason Univ.)らのコメントを参考にし、具体的には、経済環境を、定常的なものから経済成長を可能にするものへと変更することにした。経済環境の変更は、投資財についての仮定を次のように変更することによってなされた。すなわち(1)投資財の減価償却率を、100%(1期間で資本が消滅する)から0%(同じ生産が無限期間続く)へと変更する;(2)資本の労働生産性が、投資によって常に一定の割合で増加すると仮定する、というものである。 この変更された経済環境の下で、所有権の存在しない(盗みを許容する)自然状態におけるナッシュ均衡を求めることにより、経済環境と経済成長との関係を分析した。主要な結論は次の通りである。 1)資本の労働生産性の投資による増加率(λ)がある一定の値以下のときには投資は全く行なわれず、経済は成長しない。 2)λがある一定の値以上のときには、全ての人が投資を行ない、経済は一定の成長率で成長する。 3)λが一定の範囲にあるときには、投資を行なう人と盗みを行なう人とが混在する。 以上の結論から、3)の場合に所有権保護を目的とする国家が生成される可能性があることが示唆される。このケースに限定して、国家生成モデルの構築を試みることが今後の課題として残される。
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