研究概要 |
今年度は,シミュレーションモデルに重要な改訂を加えた.具体的には,競争相手がいない場合,企業は限定合理性の制約下にあっても,適応的行動の結果しかるべき時間が経過した後に利潤を最大にする生産量に到達できるようにした.企業は,費用関数,直面する需要関数,そして適応的行動のパターンが同じであるという意味で同質的である.しかしながら,適応的行動の具体的な表れ方(価格や生産量の変化の方向)はランダムに決められる点で企業は異質性を持ち,この異質性こそが企業どうしの競争の行方を左右する.消費者は限定合理性の制約の下で,できるだけ価格の安い企業から財を購入するという行動をとる.ただし,各消費者には「馴染みの企業」があり,ある程度の範囲内なら価格が高くても馴染みの企業から購入するが,馴染みの企業の価格が他の企業に比べて臨界範囲を越えて高くなると別の企業から購入するようになり,それと同時に馴染みの企業も変更される.こうした消費者の「惰性」が,以下のように市場のダイナミクスをかなり左右することが明らかになった. (1)消費者の惰性がまったくない場合には、極めて短期的に独占企業が次々と交替する. (2)消費者のある程度の惰性を持つ場合には,初めのうちはすべての企業が共存するが,やがて寡占が発生ししばらくして独占状態が生まれる. (3)消費者の惰性がかなり強い場合には,しばらくはすべての企業が共存しているものの,やがて寡占状態が発生しそれが永続するようになる.この場合は生じない. (4)昨年度の結果と同じように,収穫逓減か逓増かは独占・寡占の発生に対して重要な役割を果たさない. なお,今年度は実験経済学の手法を取り入れるには至らなかったので,これは来年度以降の課題となる.
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