低次元力学系の場合のアトラクタについてはまだ予備的な研究段階に留まっているが、無限次元の「関数力学系」については若干の成果を得ることができた。 関数力学系は金子邦彦、片岡直人両氏により自己参照系のモデルとして提唱された(Physica Dに掲載予定)。これは1次元写像に値をとる力学系f→(1-ε)f+εfofであり、数学としてみれば、典型的と確信するに足るいくつかの数理現象がシミュレーションにより観察されている。例えば、 (1)極限写像fが観察される場合、それは階段関数になる。 (2)極限写像が存在しない場合にも、ある部分区間Ωでのみ定義された固定階段関数f出現することがある。 (3)その部分区間の外に、"自己参照力学系"g=(1-ε)id+εfに駆動されたNagumo-Sato力学系のアトラクタが観察されることがある。 (4)さらに、順次得られた部分力学系に駆動されたより複雑なアトラクタが観測できる。 両氏は、これらをI、II、III、・・・型固定点という視点を導入して、ある程度までの数学的解析を試みていた。 以上のうち(1)から(3)まで、つまり、I、II型固定点については、数学として完全な理解ができることが判明した。因みに、Ωは、軌道に現れるすべての写像の固定点および固定点の逆像の全体であり、Ω内に留まるg軌道が(3)である。(4)については現在研究中であるが、今夏までには共著の形で成果を論文にまとめる予定である。
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