水晶マイクロバランス法を用いて、極低温下におかれたCs基板およびアモルファス(a-)Mo_xSi_<1-x>薄膜基板上へのヘリウム(^4He)の吸着現象を調べた。重いアルカリ金属であるCs基板は、ファンデルワールス力が弱く、極低温では^4Heに濡れないことが知られている。ところが、Cs基板の成膜速度や成膜後の熱処理条件を変えると濡れない性質が失われ、通常の金属基板のように濡れることがわかった。これはCs表面が粗くなったことによると考えられる。この結果は、吸着現象の研究には基板の表面構造の制御が重要であることを意味している。 そこで、同一の基板表面で、基板と吸着^4He原子の間に働くファンデルワールス力の強さを外場(磁場)だけによってコントロールすることを目指し、a-Mo_xSi_<1-x>薄膜上への吸着実験を行った。この膜は、われわれが2次元系の超伝導絶縁体転移の研究で詳細に調べている系であるが、超伝導絶縁体転移近傍に常伝導抵抗値をもつようなMo濃度xの超伝導薄膜を用いると、極低温で数テスラ程度の垂直磁場を印加することによって、超伝導体から半導体に近い状態までまでその電子状態を変化させることができる。結果は、磁場印加によって高抵抗になったa-Mo_xSi_<1-x>薄膜は、低抵抗(超伝導)のときより^4Heに対して濡れやすい傾向があることがわかった。このことは、外部磁場によって基板の電子状態を変化させ、基板の吸着ポテンシャルを変えることができたことを意味する。この成果をもとにして、a-Mo_xSi_<1-x>薄膜上に薄いCs薄膜を成膜し、磁場によって濡れ転移を制御することを今後の課題とする。
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