本研究では、「有機化合物を分取用キャピラリーGCを用いて、100μgオーダーで各分子種毎に大量に分取する方法(PCGC法)」と「真空装置中で化合物を酸化・還元してH_2ガスを作り、それを同位体質量分析計(IRMS)に導入して水素同位体比を測定する方法(Off-Line法)」を組み合わせることで、アルカンや脂肪酸、ステロール、ホパン等々の各種脂質バイオマーカーの個別水素同位体比の測定を可能にすることを目指している。本年度は、その測定のための準備段階として、以下の課題に取り組んだ。第一に、新たに脂質化合物の分離・精製に使用するロータリーエバポレーターなどの各種実験器具を購入し、化合物の分離・精製条件の検討を進めるとともに、本研究室に既設の設備である「大容量分取キャピラリーガスクロマトグラフ(PCGC)装置」を用いて脂質化合物の分子種毎の分取条件の検討を進めた。その結果、100μgオーダーの有機化合物を分子種毎に短期間に回収する条件を決定できた。第二に、真空ラインを整備して、単離した100μg程度の脂質化合物をH_2ガスに変換させる条件を検討した。また、本研究室に既設の同位体比質量分析計を整備し、スタンダードガスの調整などを行って、水素同位体比の測定条件を決定した。これらの結果、単離された各化合物をそれぞれH_2ガスに変換して、その水素同位体比を測定する条件を整えることが出来た。来年度は、これらの技術を用いて、実際の環境中の脂質バイオマーカーの分子レベル水素同位体比を測定・解析し、それらの同位体比情報が、バイオマーカーの起源生物の生息環境や生理状態等、どのような因子に規定されて決まるのかについて議論する。
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