本研究では、抗体によるタンパク質の特異的捕捉という生化学的には一般的な手法と、タンパク質の構造解析においてその有用性が確認されている偏光紫外共鳴ラマン分光法を組み合わせることにより、球状タンパク質の配向試料作製とその構造解析という新規分野の開拓に挑戦した。研究の進め方としては、先ず、タンパク質をできるだけ規則正しく配向させるための条件を明らかにし、次に、タンパク質配向試料からのラマン散乱光を効率よく集光するための測定法および測定データ解析法を検討した。 1.配向試料作製のためのタンパク質としては、ヒト血清アルブミンを先ず取り上げた。ヒト血清アルブミンに対する抗体は、これまでに多数開発・市販されており、この中から、アルブミンの特定部位を選択的に認識・捕捉する能力の高い抗体数種を選んで購入した。 2.抗体をポリ塩化ビニールの基板に種々の条件下で固定化を行ない、最も配向性の高い試料作製法を見出すために、濃度、温度などの条件を変えて、多数の試料を作製した。 3.配向試料作製の実験と並行して、ラマン散乱用照射・集光光学系の設計・製作を行った。 4.アルブミンに含まれるトリプトファンおよびチロシン残基の配向角を偏光紫外共鳴ラマンスペクトルから求めることを試みたが、試料の配向度が充分でなく、現在のところ信頼できる結果は得られていない。
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