研究概要 |
生体内で様々な触媒機能を示す酵素は、多くの場合Fe,Cu,Mn,Zn,Mg等の金属を有する一種の金属錯体である。これらの系が示す酵素の活性化機能は、酵素蛋白質の有する多重構造によって活性中心が金属周辺に構築された究めて特異な環境により巧妙に制御され発現されている。我々はこのような金属酵素における活性部位周辺の配位子及び配位構造、配位環境の共通点に着目し、それら金属酵素の構造を規範としたモデル錯体を設計・合成した。本研究では、特にリン酸結合の形成で知られるATPaseに焦点をあて、新規機能性配位子の設計・合成し検討した。(6-amino-2-pyridylmethyl)bis(2-pyridylmetyl)amineのCo(III)錯体とNPPを水中で反応させたところ、非常に興味深いことに二リン酸を配位した錯体の単離、結晶構造の確認に初めて成功した。これまで、NPPが加水分解され、リン酸を遊離するという反応はよく知られているが、リン酸結合の形成を確認した例はない。この反応は水中で行われたこと、pH3で反応が推進されること、疎水場の存在が重要な寄与をしていること等、生体系での条件とよく一致していた。これはADPからATPが合成される過程を再現したものであり、ATPase機能モデルとして究めて興味深いものと考えられ、今後そのメカニズムの解明へと研究を進めていく予定である。ここでは、活性酸素種の捕捉・反応、ATPaseモデルの構築について報告したが、本研究で設計合成した配位子が生体系金属酵素の活性中心近傍の配位環境とよく一致していたことは多くの金属酵素が持つ機能の解明、構造活性相関について分子過程・構造制御の面から検討可能であることを示すものである。
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