高エネルギー化合物の一種であるATPは、生体内においてエネルギーが必要とされる場面で活躍しており、ADPとPiからATPを合成するF_0F_1-ATPaseは、ATPを生体内で主に合成する重要な酵素である。本研究では、F_0F_1-ATPaseの高エネルギーリン酸結合の形成においてマグネシウムイオンが関与することの意義に着目し、リン酸エステルの認識から開裂・生成反応メカニズムに至るまでの重要な知見を得ることを目的として、三脚型4座配位子tris-pyridylmethyl)amine(TPA)を用い、そのコバルト(III)錯体の炭酸塩とリン酸エステルの反応を水中で行なったところ、反応中間体であるニリン酸を生成するという反応を見い出した。これらの反応機構(リン酸エステルの認識から開裂・生成反応メカニズム)を検討するために、種々の合成化学的・物理化学的手法により行った。その結果、(i)リン酸縮合反応の反応メカニズムを提唱することができ、その時に水中で形成するピリジン環による疎水場という非共有性相互作用基により形成される特殊反応場が非常に重要な役割を果たしていること、(ii)配位子の置換基の大きさによりリン酸縮合反応の反応性が制御できることが明らかにすることができた。従って、本研究は、サブユニット単位でのみ提唱されているF_0F_1-ATPaseのATP生成反応を分子レベルにおいて、金属が果たす役割を解明する上で重要な知見を与えるものである。
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