染色体バンド境界の分子レベルでの特定とその機能探索

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11874110
• 研究機関: 国立遺伝学研究所
• 研究代表者: 池村 淑道 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 教授 (50025475)
• 研究分担者: 天前 豊明 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 助手 (70270460) ; 深川 竜郎 国立遺伝学研究所, 集団遺伝研究系, 助手 (60321600)
• キーワード: 染色体バンド / 複製タイミング / X染色体の不活性化 / S期 / XIST / バンド境界 / 遺伝子密度 / GC含量

研究概要

温血脊椎動物の染色体DNAがGC含量のMbレベルでの区分的分布よりなり、この区分構造がバンド領域と関係することが判明してきた。バンド領域はS期内の複製時期にも関係しており、遺伝子密度や組換え頻度等を異にする機能上のドメインとも考えられるようになってきた。バンド領域がGC含量の区分構造や複製タイミングゾーンと関係している点に着目し、バンド境界を分子レベルで特定することを試みた。着目した領域の第一は、ヒトX染色体のXICとその周辺領域である。X染色体の不活性化に重要な役割を果たすXICは、Xq13領域内に位置し、Xq13.1とq13.2の境界附近と推定されている。XICおよびその周辺領域については、塩基配列の情報が蓄積しており、複製タイミングを詳細に解析することで、バンド境界の分子レベルでの特定および境界の特徴構造の探索が可能であった。XICのセントロメア側に位置する大型逆位配列の近傍、ならびにXIST遺伝子領域において、複製時期がS期前半から後半へ転換していた。XIST遺伝子の5'上流およびエクソン1の部位がS期前半に複製するのに対して、遺伝子の3'側や3'下流が後半に複製し、XIST遺伝子内部において(特に3'側部位で)、複製タイミングが大きく変移している。XICの属するXq13は通常のRバンドである。ヒトゲノムの一般的な性質として、丁型のRバンド領域は明瞭にGCに富み、GバンドはAtに富む。しかしながら、通常のRバンドは中間的で複雑な性格を持つ。XIST領域の複製時期の変移部位においてもGC含量の変化は見られたが、Tバンドに属するMHCの場合よりは、その差は小さいものであった。ゲノム上にバンド境界と関係したランドマークを特定していく方法としては、複製時期の測定のほうが広い適用性を持つと結論できる。ヒト11番染色体長腕の約80Mbの全域を対象に、詳細な複製タイミング地図を作成しており、同様な結論を得ている。

研究成果

• [文献書誌] 大野みずき: "Non-B DNA structures spatially and sequence-specifically associated with individual centromeres in the human interphase nucleus"Chromosomes Today. (in press). (2000)
• [文献書誌] 野上正弘: "Intranuclear arrangement of human chromosome 12 correlates to large-scale replication domains"Chromosoma. (in press). (2000)
• [文献書誌] 椎名崇: "Molecular dynamics of MHC genesis unraveled by sequence analysis of the 1.8 Mb HLA class I region"Proc Natl Acad Sci USA. 96. 13282-13287 (1999)
• [文献書誌] 深川竜郎: "CENP-C is necessary but not sufficient to induce formation of a functional centromere"The EMBO Jornal. 18. 4196-4209 (1999)
• [文献書誌] Simon I.: "Asynchronous replication of imprinted genes is established in the gametes and maintained during development"Nature. 401. 929-932 (1999)
• [文献書誌] 深川竜郎: "The chicken HPRT gene : a counter selectable marker for the DT40 cell line"Nucleic Acids Research. 27. 1966-1969 (1999)
• [文献書誌] 安藤麻子: "cDNA cloning, Northern hybridization and mapping analysis of a putative GDS (guanine nucleotide dissociation stimulator of G proteins) -related protein gene at the centromeric ends of the human and mouse MHC regions"Immunogenetics. 49. 354-356 (1999)
• [文献書誌] 大野みずき: "間期核の染色体DNA中に存在する三重鎖構造とその機能"蛋白質核酸酵素. 44. 1757-1763 (1999)
• [文献書誌] 金谷重彦: "Distribution of polypurine/polypyrimidine tract sequences in the human MHC region and their possible functions"In : Major Histocompatibility Complex, Springer-Verlag Berlin/Heidelberg/New York/Tokyo. 15 (2000)