研究概要 |
高知県土佐郡工石山の温帯混交林に設置した調査プロット(40m×70m)において,全立木の毎木調査と土壌柱状試料の花粉分析(合計13地点)を行った.調査プロットはアカガシ(BA:11.9m^2/ha,35.5%)が優占する林分で,その他にブナ(3.42m^2/ha,10.2%),コハウチワカエデ(3.38m^2/ha,10.1%)などの広葉樹が主要な構成種となっており,モミ,ヒノキ,ツガなどの温帯針葉樹も混交している.土壌柱状試料の花粉分析から,この調査プロットのアガガシ林は300m^2以下の小林分の更新によって維持されてきたこと,アカガシの個体群が増加傾向にあることが考えられた.全調査地点を通して,B層中部あるいは上部から土壌表層に向かいスギ属花粉の出現頻度の上昇が認められた.これは藩政時代からの山麓のスギ植林に由来すると考えられた.各調査地点においてスギ属花粉の出現頻度が上昇を始める直前の層位の花粉帯を同一時間面上での植生分布を示すものと仮定して,この時期の植生の空間分布をGrid-methodによって表現した.その結果,当時のアカガシの優占度は現在よりも低かったこと,調査プロット中央部にはソヨゴとヤマヤナギが優占する約1,000m^2のパッチが存在していたことが示唆された.森林土壌の花粉分析と平行して,前年度の分析方法にしたがいAMS年代測定のための土壌試料(スギ属花粉の出現率が上昇を始める直前の層位)の前処理も行った.しかし,多量の土壌試料(約30g)を処理したにもかかわらず0.5mgを超えるCを含んた堆積花粉をB層から抽出できなかったために,現時点では統計的に信頼度の高い年代測定値を得ることができなかった.この点に関しては,土壌試料の処理量を増やすとともに,堆積花粉をさらに高濃度で抽出する分析方法の改良について再検討する必要がある.
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