本研究は細胞の集団による空間認識に関して新しい生理学的、生化学的な知見を得ることを目的とした。運動性をもつラン藻スピルリナは、とりまく外環境の形を認識し、その形を集団の形とする。スピルリナの細胞縣濁液を丸いシャーレに入れ、それにcAMPを添加すると、細胞はお互いの表面を滑走するように運動しながら凝集し、結果として水面にマットのような丸い凝集体を形成する。異なった形をした容器を用いた実験から、マットはそれぞれの容器の形と相似であることが確認された。また、その形は寒天ゲルが自然に収縮して出来るようなものではなく、細胞の能動的な運動の結果であることが明らかとなった。実体顕微鏡とテレビカメラ装置をつなぎ、スピルリナ細胞の運動の様子とマットの形状の成立までを観察したところ、マットの形成は通常約40分で終了した。マットの形成を異なった細胞濃度、異なったpHや塩濃度の条件下で、より厳密に観察した結果、食塩濃度がマットの形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。食塩濃度は0.25Mが最もマットの形成に有効であった。マット形成を分子生物学的に研究するためには遺伝子操作が不可欠である。しかしながらスピルリナ細胞は形質転換が今のところ不可能である。そこで形質転換が行え、かつ運動能を持つシネコシスティス用いてcAMPの運動におよぼす影響を調べたところ、スピルリナと同様にcAMPによって運動が促進された。
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