研究概要 |
植物の若い芽生えに対するエチレンの作用に関し,前年度においてエチレンの一時的処理が細胞分裂を誘導することを明らかにした.引き続き本年度は,前年度同様,キュウリ(Cucumis sativus L)の胚軸表皮系をモデルとし,細胞分裂に対するエチレン効果の定量的解析とその作用機構を明らかにすることに焦点を当て研究を行った.特に,細胞分裂に対するエチレンの作用についてはこれまであまり詳細な研究が行われておらず,数少ない報告についても,阻害的,促進的と相反する報告がなされてきた.この矛盾する現象について,以下に述べる本年度の結果は一つの明確なモデルを提示するに至った.(1)エチレン存在下では細胞分裂は抑制され,エチレン除去後に著しい細胞分裂の促進が見られた.(2)0.1〜100μL/Lのエチレン濃度範囲で細胞分裂促進作用とエチレン濃度との間に対数的な正の比例関係が得られた.(3)エチレン処理直後からDNA合成の著しい促進が見られた.(4)しかし,エチレン存在下では細胞分裂(M期)への移行は阻害された.(5)エチレン存在下ではDNA含量が通常の数倍にまで増加する核が誘導された.(6)エチレン除去後には,著しい細胞分裂の促進が見られた.以上の結果により,エチレン処理によってDNAの合成が誘導された細胞は,エチレンによるM期への阻害によりDNAのエンドリデュープリケーションが誘起され,これらの細胞分裂のポテンシャルが増加した細胞は,エチレン除去後にM期に移行し,細胞分裂の促進効果として現れることが明らかとなった.以上,一見相矛盾する細胞分裂に対するエチレン作用について,エチレンによる細胞周期の調節という観点に立つ一つの明確なモデルの提示することができた.その結果の一部は,2000年7月,米国サンディエゴで開かれたアメリカ植物生理学会で発表し,現在,論文を投稿準備中である.
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