本研究では、高分子ゲルに見られる形態変化のスイッチ・メモリー機能を、ミクロドメイン構造のサイズ領域で実現するための基礎を構築する。そのために、高分子ゲルの持つ希薄で複雑な網目構造とそれに起因したユニークな現象の解明に関する研究を行い、ゲルの表面相の微視的構造、様々な表面構造と巨視的な機能との関係、実際の網目の不均一構造の果たす役割、機械的拘束など特殊な環境下でのゲルの相転移といった基礎的な未解決の問題を研究する。平成11年度は、ゲルの微視的な表面構造についての実験を行ない、次の成果を得た。 1.イオン分子(アクリル酸ナトリウム)で修飾された熱応答性のN-イソプロピルアクリルアミドゲルをサブミリメーターの厚さの薄膜状に合成した。イオン分子の割合を変化させ、ドメインサイズ(イオン分子が形成する網目の不均一構造)が異なる高分子ゲルを合成した。さらに、ゲルを銅イオン水溶液中に浸し、錯体を形成させた(錯体ゲル)。全てのゲルの巨視的な体積相転移を測定した。 2.メゾスコピックレベルでの表面形態制御と評価技術を確立した。 (1)ゲル表面のサブミクロン〜数ナノメートルサイズの微視的構造を液中で直接、液中タッピングモードによりAFM観察し、イオン分子によるミクロドメイン構造の観察に成功した。温度変化によるゲルの微視的表面形態の変化を測定した。(2)AFM像から表面高さの自己相関関数と相関長を計算し、ラフネス解析を行ない、ゲルの表面構造とその変化を考察した。ゲルの表面の微視的構造のサイズ依存性、及びそのスケーリング則を考察し、表面構造の階層性を評価した。(3)AFM観察によるドメイン構造の変化と巨視的な体積相転移を比較し、ドメインの形態変化と巨視的な体積に及ぼす影響について考察した。
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