本研究では、高分子ゲルに見られる形態変化のスイッチ・メモリー機能を、ミクロドメイン構造のサイズ領域で実現するための基礎を構築した。高分子ゲルの持つ希薄で複雑な網目構造とそれに起因する諸現象、ゲルの相転移に関する未解決の基礎的問題を研究した。 平成12年度は、膨潤度にヒステリシス現象を示すゲル表面のドメインを用いて、外力と局所的熱発生とにより書き込みを行ない、外部環境変化により膨潤相転移という消去を行なう機能の発現について検討し、次の成果を得た。 1.応力と温度によって、ヒステリシス現象を示す高分子ゲル薄板状に合成した。イオン分子の含有量と架橋密度の最適値を決定し、ユニークなドメイン構造とその温度変化を示す刺激応答性高分子ゲルを合成した。ゲルを銅イオン水溶液中に浸し、錯体を形成させた(錯体ゲル)。ゲルの巨視的な体積相転移を測定し、ヒステリシス現象について詳細に測定した。 2.アルゴン・イオンレーザーを光学系と組み合わせることによってビーム径を絞り、光照射によりゲル表面のドメイン構造を変化させ、原子間力顕微鏡により観察した。 3.ヒステリシス現象を示すゲル表面のドメインを用いて、可視光により収縮相転移という書き込みを行ない、光を遮断しても収縮状態を保持し、外部環境変化により膨潤相転移という消去を行なう機能発現の最適条件を検討し、ゲルの構造と外部環境変化の影響、局所収縮相の安定性、サブミクロンサイズの表面構造変化が生み出す形態変化の原理と機能に果たす役割について考察した。 4.ゲル表面の微視的構造、様々な表面構造と巨視的な機能との関係、実際の網目の不均一構造の果たす役割、機械的拘束下でのゲルの相転移、高分子ゲルのもつ複雑で多様な性質を生み出す基本原理とその物質科学への応用について総合評価した。
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