小惑星のような微小天体上では、重力が地上の千分の1から1万分の1程度であると言われており、地球上を移動・走行する概念では探査ロボットは成立しない.地上の車輪走行では重力による鉛直荷重に面の摩擦係数を掛けたものが推進力となるが、重力がきわめて小さい環境では鉛直荷重がほぼゼロとなってしまうため、車輪はそのままでは原理的に微小重力天体での歩行には適用できない.よって重力の大きさによらず確実に移動が可能な方式が求められる。 本年度の研究では、1自由度回転の簡単な脚機構を4組用いた跳躍移動方式を検討した.脚を用いると、その振りおろし速度により地面を蹴る反力が得られ、重力がきわめて小さくても任意の推進力が得られると考えられる.具体的な検討例として、現在計画が進行中である宇宙科学研究所の工学衛生MUSES-Cに搭載可能であることをひとつの参考基準として、探査移動ロボットのモデルの設計およびプロトタイプの試作を行った.その際、ミッションおよび物理的な制約条件を以下のように設定した. ・任意の方向に移動することができ、任意の向きに静定することができること ・温度計測、重力計測、および写真撮影などの科学的ミッションをなし得ること ・質量1kg以内、大きさ20cm角以内 ・太陽電池発電および搭載バッテリーにより1週間程度活動可能なこと 試作したプロトタイプは、地上の1G環境においては十分な跳躍移動特性を示したが、小惑星等のきわめて重力が小さい環境における運動特性については未知である.微小重力を模擬した実験等によって裏付けのデータを取りつつ、信頼のおけるダイナミクス数値シミュレーション環境を整備してゆくことが次年度の課題である。
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