研究概要 |
小惑星のような微小天体上では,重力が地上の千分の1から1万分の1程度であると言われており,地球上を移動・走行する概念では探査ロボットは成立しない.地上の車輪走行では重力による鉛直荷重に面の摩擦係数を掛けたものが推進力となるが,重力がきわめて小さい環境では鉛直荷重がほぼゼロとなってしまうため,車輪はそのままでは原理的に微小重力天体での走行には適用できない.よって重力の大きさによらず確実に移動が可能な方式が求められる. 本年度の研究では,宇宙科学研究所で進めている小惑星探査計画MUSES-Cに関連して,微小重力状態を模擬実験する複数の機会を得ることができた. 第一は,宇宙科学研究所に設置されているロボットシミュレータを用いたハイブリッドシミュレーションである.同シミュレータでは,ロボットシステムと小惑星模擬表面との間の接触を実際に生じさせ,その反力を力/トルクセンサーにより計測し,その計測値に基づいて接触後の相対運動を機械的に提示することができる. 第二は,日本無重力総合研究所(MGLAB)における垂直落下塔試験である.この試験設備では,約4.5秒間の微小重力状態を実現することができる. この両者の微小重力実験において,コンプライアンスを含む多リンク系のメカニズムを,小惑星の模擬地面に低速度で接触させ,力学関係およびその後の運動を計測し,数学モデルに基づく数値シミュレーションと比較した.その結果,昨年度開発したダイナミクスシミュレーションの枠組みの正当性が確認され,しかし接触摩擦モデルについては,クーロン摩擦のみでは現象を理解するには不十分であり,stick-slip現象のモデル化が必要なことが明らかとなった. また,微小天体探査の理学コミュニティーとの交流の機会をもち,小惑星において想定される表面状態および探査ロボットシステムに求められる機能について,概念を明確化した.
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