研究概要 |
本研究では,単結晶シリコン基板(表面結晶方位[111],N型,10mm×10mm×0.38mm)を用い,表面に水滴を滴下した後に基板-水滴間に直流電圧を印加して,このときのぬれ変化の観察と電圧,電流の計測を行った.以前の実験で基板への通電はタングステン製針を基板に接触させて行っていた.しかし,この方法で実験毎に接触部の電圧降下に大きなばらつきが生じ,肝心な水滴-シリコン基板界面の電圧電流関係を読み取ることが困難であった.基板側への電圧印加方式を変更し,基板裏面へ仕事関数の小さいインジウムを蒸着(膜厚:1μm)し,導電性接着剤により配線することによって,接触抵抗ならびにシリコン基板による電圧効果の軽減と,実験毎のばらつきを小さくした.プローブでは平均抵抗400kΩ,ばらつき100%以上であったが,インジウム蒸着膜では平均抵抗85Ωで,ばらつきは1%未満という結果を得た. 次に,5V以下の電圧で実験を行った.その結果,電圧印加速度の小さい実験(0.1V/s)において,ほぼ1.5V,電流5.5μAでぬれの拡張が開始し,印加電圧がほぼゼロに戻るまで続いた.電圧-電流関係は,ぬれ拡張が開始するまでは直線的であるが,開始後は電圧増加に対する電流の増加が見られなかった.また,電気特性について,時定数の大きいコンデンサーに似た特性を示すことを明らかにした. ぬれの拡張後,表面の水滴を取り除き,その後同じ場所に水滴を滴下したところ,先ほどの電圧印加により水滴が広がった個所と同じ範囲でぬれを示した.また,ぬれ拡張後に基板を希フッ酸に浸漬した場合は,後から滴下した水滴は一般の基板表面の場合と同様に半球状態となった.以上の事実から,ぬれ拡張が生じる場合には,基板表面と水滴の界面に親水性の膜が形成されていることが予想される.この基板表面に残された親水膜の機器による分析は今後の課題である.
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