研究概要 |
本研究は、高誘電率絶縁材料である酸化タンタル薄膜上に2種類の有機蒸着薄膜を積層したハイブリット形超構造薄膜を作成し、酸化タンタルと有機層のヘテロ界面に形成した井戸型ポテンシャルに電荷蓄積させメモリー機能を引き出すことを試みた。 なお、酸化タンタルは反応性スパッタ法により透明電極上に成膜し、これにエレクトロクロミズム現象を有するコバルトフタロシアニン(CoPc)を約10nm、電子輸送材料であるAlq_3膜を50nm程度蒸着し、最後に電極を形成してこれを超構造有機薄膜とした。CoPcはエネルギーギャップの小さな有機半導体でありこれを高誘電率酸化薄膜と導電性有機薄膜とで挟むことでCoPc層界面に量子井戸が形成される。この量子井戸に外部電界により電子輸送材料を介して電子を注入して電流及び素子の透過スペクトルを調べたところ、CoPcの還元反応に伴うエレクトロクロミズム現象が観測された。このことは、CoPc層界面に分子密度と同程度の高密度の電子が蓄積されたことを意味する。また、表面電位測定から外部電圧を取り除いても素子表面には数分間電位が維持される、すなわち電荷が維持されることがわかった。ただし、素子特性の再現性は十分ではなく、特に酸化タンタルの膜質に大きく左右された。酸化タンタルは作成法により絶縁性能が大きく変わることから、酸化タンタルの作成法を改善すればこの問題は解決できると考えられる。ところで、上記素子における蓄積電荷は電極からの注入キャリアによるため電極からの注入効率を制御することも重要である。そこで、有機層にイオン性不純物を添加して分極処理を行ったところ、電荷注入効率を2,3桁の範囲で制御できることがわかった。 本研究を通して、超構造有機薄膜界面に高密度の電子性キャリアの蓄積することを利用した静電メモリーの構築の可能性を見出すことができた。当初の計画はほぼ達成できたと考えられる。
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