本研究は、半導体の研磨屑の中から、特定の粒径・導電型をもつ結晶微粒子を分離回収するためのアイデアの実証を目的としている。特に、移動体通信の普及に伴って生産量が急増しているガリウムヒ素(GaAs)について、その研磨屑の基礎物性を明らかにするとともに、接触帯電現象を利用して導電型の異なる結晶粒の選別可能性について理論的に検討した。主要な成果は以下の通りである。 (1)ラップ工程(砥粒:アルミナJIS#1500)で排出されたGaAs研磨屑からアルミナを遠心分離により除去した微結晶粒を、低圧インパクタ装置を用いて、12段階(中心粒径の公称値:0.01μm〜4.6μm)に分級した。 (2)フォルミネッセンス(PL)法により、微結晶粒のバンド端発光を測定した。n型では、公称粒径値が0.5μm以下のグループにおいて、バンド端発光が高エネルギー側にシフトした。これに対して、p型結晶では明確なピークエネルギーシフトは観測されなかった。 (3)原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、サブ100nm領域で結晶粒の形状評価を行った。この結果、公称粒径0.5μm以下の試料においては捕集領域周辺部に、公称値よりも1桁以上小さな粒径をもつ結晶粒が多数存在することが明らかになった。この結果と、表面空乏層厚がp型よりもn型で大きくなる事実とから、(2)のPLの実験結果を半定量的に説明することができる。 (4)接触帯電の理論的な検討を行った。その結果、表面準位密度を10^<12>cm^<-2>程度以下にできれば、接触帯電現象を用いて導電型の異なるGaAs結晶粒を選別することが可能になることを明らかにした。実現方法として、多硫化アンモニウムや脱酸素・脱イオン水による表面処理が有力な候補となろう。 (5)ケルビンフォース顕微鏡(KFM)により、GaAs研磨屑に光照射することで電位変化を起こさせることができることを確認した。
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