本課題では、固体の振動を伝達する従来の超音波発生法とは異なり、固体表面と空気との間で熱の授受を高速に行い、それによる空気の膨張、圧縮によって超音波を発生する新しい原理のデバイスを提案し、その実現を試みた。昨年度は音響エネルギーの発生効率を向上させるための電極パターンの設計要件と時間的駆動方式を提案したが、本年度は実際にそれを用いて強力超音波を実際に発生させ、非線形音響効果を確認した。 1.ポリイミド断熱層上に、1mm角の熱誘起電極を形成し、瞬時電力1kW、幅1μsecのインパルスを印加することによって、1000Paを超える超音波の発生を確認した。理論上は10kPaの音圧が発生している可能性もあり、現在も評価実験が進行中である。また単純な平面形状だけでなく、電極に3次元形状を与えることによって発生可能な最大音圧がさらに向上することを発見した。 2.発生音圧が1000Paを超えると、そのような強力超音波を微小物体に照射し、放射圧によってそれを非接触のまま操作する応用や、触覚ディスプレイとして応用することも可能となる。本年度の研究においては、超音波発生素子上に微小物体を配置し、その物体が放射圧によって浮揚する現象を確認した。 本課題の熱誘起超音波が有する特長として、発生音の周波数特性が平坦であることはすでに確認されていたが、本年度の研究によって非線形音響効果が発現する強力超音波の発生が可能であることも実験的に確認された。本課題の成果によって、超音波の新しい応用分野と利用法が開拓されるものと期待している。
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