廃棄物埋立処分場よりの内分泌攪乱化学物質をはじめとする極微量で人体に影響を与える化学物質による周辺環境への影響が懸念されている。また、焼却灰、浸出水などからは問題となるダイオキシンなどの物質が検出されており、この状況を端的に示している。焼却灰中にはダイオキシン類や残留性有機汚染物質として指定され、また内分泌攪乱性が疑われている物質を含むPAHs(多環芳香族炭化水素類)をが高濃度で含有されていることが指摘されている。PAHsは有機物の不完全燃焼によって生成する非意図的生成物であり、一般環境中にも高濃度で検出されることがある。この物質群はほぼ全てに変異原性が認められており、中には強い発癌性を疑われているものもある。本研究ではA市処分場試料のGCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)による10種類のPAHsの検出、定量を行い、同時にエストロゲン性(女性ホルモン性)を評価するため、ヒト乳がん細胞MCF-7によるバイオアッセイを行うことにより処分場の安全性評価を行った。また、抽出段階等での焼却灰中でのPAHsの吸着挙動についても検討を行い、周辺環境への影響を考えた。 PAHsの物理化学的性質より、河川底泥への長期間に渡る蓄積影響は懸念すべき点であるが、現在の時点では特に緊急的な警鐘を鳴らすまでとは至っていない。またMCF-7細胞でのアッセイでは全ての試料で最も高い投与濃度でエストロゲン様活性が認められたが、PAHsの溶出挙動より、ここの濃度に含まれる量のPAHsが自然界で焼却灰より溶出してくることは考えにくい。しかしながら、対象としたPAHsのLog Powは最も低いBenzophenoneで3.18、最も高いBenzo[a]pyreneで6.13と、かなりの生物濃縮性を示している。このことから脂溶性有機化合物の蓄積影響は無視できず、逐次生物によるモニタリングの必要性がある。
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