物質の結晶構造を決定する方法として知られているX線回折法において「位相問題」とよばれる難問が存在している。これはBragg反射、すなわち各原子からの散乱X線波の合成波、の振幅は反射強度の測定から知ることができるが、その位相は測定不可能であるため、フーリエ合成によって電子密度分布を得ることができず、結晶構造が決定できないという問題である。本研究において放射光の波長連続性と高輝度性に着目し、結晶に入射するX線の波長を特定の原子の吸収端近傍において時間的に変動させながらBragg反射を記録し、その強度プロフィルに現われる勾配から位相を決定するという新しい方法、「X線波長変調回折法」、を考案した。 結晶に対称中心の有る場合は強度勾配からただちに位相、この場合は符号、を知ることができる。対称中心のない場合は二つの波長領域において強度勾配を測定し、連立一次方程式を解くことにより位相が求められる。これら二つの場合について具体的な実験方法を示すとともに、測定される強度勾配に入る誤差の評価を行った。そして立命館大学の放射光源を用いてテスト実験を行い、X線波長変調回折法が位相決定のための強力な方法として発展し得ることを確かめた。
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