ZnSeやGaAsなどの半導体にMnなどの磁性不純物を添加して(希薄磁性半導体)、半導体中のキャリアーに電荷の自由度に加えてスピンの自由度を付与し、スピン工学素子に応用を展開する試みが盛んである。本研究では、ベースとなる半導体としてワイドギャップの酸化亜鉛に注目した。この材料は、我々による室温励起子紫外光レーザ発振の発見以来、新たなワイドギャップ半導体として注目されている材料である。 希薄磁性半導体としては興味として以下が挙げられる。(1)ワイドギャップであるためスピン軌道相互作用が大きく、磁性不純物とのより強い結合が期待できる。(2)キャリアーとして電子を考えた場合、濃度を10^<21>cm^<-3>まで高められるため、より顕著な効果が期待できる。(3)母体半導体が可視光に透明であるため、強磁性転位を誘起できると透明磁石を実現できる。(4)様々な磁性不純物(3d遷移元素)を添加したときの効果を系統的に調べると、4配位結晶場における3d遷移元素イオンの電子状態を調べることができる。 今年度の研究では、Mnドープ酸化亜鉛をパルスレーザー堆積法により形成し、固溶濃度が30%以上でも単一相のエピタキシャル薄膜が形成でき、巨大な磁気抵抗が観測された。光学スペクトルやESRなどの結果からMnが2価で固溶していることがわかった。今後は、Mn以外の固溶薄膜を形成し物性を評価する。また、透明磁石を目指して、電界誘起や光誘起現象なども調べる。
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