流れ場が時間的に変化する系における流体混合は、たとえ層流の流れであっても極めて複雑な挙動を示す。流れ場が時間的に周期変動する系に対しては、非線形ダイナミクス理論に基づく解析が行われ、カオス的混合が生じる機構などが詳しく調べられている。しかし、実際の撹拌槽内の流れのように、3次元の複雑な流れ場における混合現象に対して非線形ダイナミクス理論を適用することは、数学的に極めて困難である。 れらの困難を克服する方法として本研究では、時間と空間と濃度のすべてを離散化して取り扱う混合の新しい離散化モデルを構築した。このモデルでは、混合パターンを行列として表現し、混合の進行を混合パターンベクトルの回転として表す。そのため、混合パターンベクトルの変換行列である推移行列を、速度ベクトルなどの流れ場の情報からいかに正確に構成するかが、本研究の最も重要なポイントとなる。 本年度は、この推移行列の構成を、ニューラルネットワーク理論に基づく組合せ最適化手法を用いて行った。しかし、混合パターンの空間分解能を上げると、組合せ数の爆発的増加を招き、そのままでは計算が不可能になる。そこで独自に開発したドメイン縮小法のアルゴリズムを組み合わせることにより、高精度かつ高速に推移行列を計算することに成功した。これにより、通常の連続体モデルによる計算では数値拡散などにより表現できなかった、墨流し状の微細な混合パターンも正確に表現できるようになった。 次年度は、この離散モデルを用いて混合機構や混合特性の解析を行う予定である。
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