平成12年度は、平成11年度に展開した理論を基礎に、ラセミ溶液の分晶過程についての運動学的格子モデル(KLM)を発展させ、ラセミ溶液の現実的なモデル化と溶存分子間の有効相互作用J_<KK'>の評価を試みた。さらにモンテ・カルロ コンピュータ・プログラムにより数値計算を実行した。得られた数値情報に基礎をおいてStokesの式およびStokes-Einsteinの式より拡散係数Dを求め、仮定した格子間隔について平均二乗変位を求め、Einstein関係式と組み合わせることで実効的な時間スケールを導いた。こうして本理論から得られる動的情報についての予測結果と以前の結果との比較吟味をした。 本研究では、対象となるラセミ溶液系を記述する有効相互作用を分子軌道法などに基づき半経験的に決定する事と、それを用いて運動学的モンテ・カルロ計算を実行する際に大規模コンピュータ計算が必要となり、その計算結果の解析と可視化による結晶化パターンの認識により実験結果との比較対応が可能になる。そのため研究期間中に作成したプログラムと可視化アプリケーションとを利用して、非平衡緩和過程である結晶化過程を統計力学的に議論すると共に時空相関関数に基礎をおいてラセミ混合物とラセミ化合物との生成過程の相違を理解した。また数値データをグラフ化し解析したり、ラセミ溶液やラセミ結晶の構造、個々のラセミクラスターの構造パターンなどを可視化した。現在、本研究において得られた知見をもとに論文執筆を計画中である。また本年中に適当な学会において研究成果を報告する予定である。
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