ライムギの1R染色体は病害及び低温抵抗性の遺伝子を有するが、同時に製パン性などのコムギ粉の品質を低下させる種子貯蔵タンパク質であるセカリンの遺伝子座を持っている。本研究は、遺伝的ゲノム再編成という新しい手法で1R染色体から病害抵抗性遺伝子を残してセカリン遺伝子座を除去することを目指した。本年の成果は、以下の通りである。 1.ライムギ1R染色体の構造変異の選抜 1R染色体がパンコムギの1B染色体と置換しているパンコムギに配偶子致死染色体(3C)が1本添加している系統(2n=43)の自殖子孫736個体を染色体分染(C-バンド法)と分子雑種形成法(GISH)法で調査し、43の1R染色体の構造変異を新たに選抜した。 2.ライムギ1R付随体が転座しているパンコムギ染色体の同定 これまでに選抜した1R構造変異の中から、1Rの付随体末端がパンコムギ染色体に転座している個体を選び、その自家受精子孫から転座1Rがホモ接合になっている異なる5系統を得た。C-バンドとGISHを組み合わせた手法により、これらの1R付随体が転座しているパンコムギ染色体の同定に成功した。 3.セカリン遺伝子座の検出 分子雑種形成法(FISH)によるセカリン遺伝子座の検出には成功しなかったが、1R付随体が転座しているパンコムギ系統について、セカリン遺伝子座の存在の有無をPCR法で調査した。その結果、2系統ではセカリン遺伝子座が存在し、残りの3系統では存在しないことが明らかなった。また、実際のセカリン・タンパク質の存在の有無を確認すべく、SDS・PAEGE電気泳動の準備を現在行っている。 4.転座1Rを持つコムギ品種の育成 1R付随体が転座しているパンコムギ系統に日本、オーストラリア、イランのコムギ品種を交配して、転座1Rを持つコムギ品種の育成に着手した。
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