研究概要 |
本研究は、従来多くの時間と労力および経験を必要とした植物病原細菌同定法の改善を目指したものである。以前からの一連の研究で、アミノ脂質を分別指標とする直接コロニーTLC法が植物病原細菌簡易同定にきわめて有用であることが明らかとなっていた。本法は簡便・迅速で客観性および再現性に富む優れた方法であるが、菌種によっては試料の乾燥に時間がかかること、2種類の有機溶媒混液による2段階の展開が必要であるなどの欠点があった。そこで、細菌菌体を少量のクロロフォルム―メタノール(2:1,v/v)に懸濁しは、抽出操作を小管ビン中で行い、第1段展開を省略し、クロロフォルム―メタノール―0.2% CaCl_2・2H_2O溶液(55:35:8,v/v/v)で展開する方法により原法を簡略化することに成功した。さらに、抽出時に0.3%になるようにNaClを添加して抽出を行い、脂質抽出操作をより簡便・迅速かつ確実なものにした。この新規の方法により各種罹病植物から分離された病原細菌の簡易同定を行い本法の高い実用性を証明した。さらに、本TLC法では識別が不可能とされる病原型レベルの簡易同定法開発を試みた。まず、その有用性が認められているGLCによる菌体脂肪酸分析を行い、本法が種レベルの識別には有用なものの、種以下のレベルの識別には限界のあることを確認した。さらに、病原性試験を行わなければ困難とされたXantho-monas campestrisの病原型識別が菌体膜タンパク質のSDS-PAGEによる解析やPCRによるDNAトポイソメラーゼ遺伝子の解析により可能であることを明確に示した。以上のように、種レベルの植物病原細菌の同定にはTLC法がきわめて安価、簡便、迅速であり、亜種あるいは病原型など種以下のレベルの同定には高価で迅速さに欠けるものの、分子遺伝学的手法による解析結果の利用が適していることを明らかにした。
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