研究概要 |
メタノール酵母単膜系オルガネラであるペルオキシソームと液胞は細胞内体積の大部分を占めているオルガネラである。我々はメタノール資化性酵母を用いて、強カな異種遺伝子発現系の開発に成功しているが、このような一連の研究過程で細胞内容量の30%を占める巨大なオルガネラであるペルオキシソームが液胞に取り込まれて分解されることを見いだし(Y.Sakai et al.,J.Cell Biol.,141,625(1998)オルガネラでの異種タンパク生産性向上を妨げていると考えている。しかるに、オルガネラの分解は、タンパク分解とは異なって細胞にとって容易な作業ではなく、液胞膜によって選択的にペルオキシソームを取リ囲むという大変ダイナミックな細胞内膜のダイナミズムをともなう興味深い細胞現象である。この生命現象の分子機構を解明するために、本年度は、メタノール酵母Pichia pastorisにおける新規なプラスミド遺伝子挿入変異法を開発し、これを用いてペルオキシソームが液胞へと輸送されない100株以上のpag変異株を取得した。さらに得られたpag変異株よリ変異に用いたプラスミドDNAを回収し、挿入遺伝子周辺領域の遺伝子構造を解析することにより、これまでに30種近くのPAG遺伝子を同定することに成功した(第22回 分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集 W2A-5,)。現在、その中のいくつかのPAG遺伝子について、精カ的に解析を進めているところである。一方、ペルオキシソーム内に蓄積させるための有用な異種遺伝子産物として、糖尿病診断に有効なカビ由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FLOD)について検討した。本cDNAを大腸菌内で発現させると細胞毒性を示し、高い生産性を得ることができなかった。この毒性を膜内に閉じこめて回避するために、メタノール資化性酵母のペルオキシソーム内で、FLODを効率よく生産することにも成功した。今後、pag変異株を用いて、さらなる生産性の向上について検討の予定である。
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