細胞内が行なう多段階逐次反応を、精製酵素を用いて再現することは容易でない。胆汁酸合成における側鎖切断(II型β酸化系による)もその例である。我々はこの反応の第2段目以降を試験管内で再現することに成功した。成功の理由は、酵素本体と融合しているが反応には直接関与しないドメイン(通称のSCP2は実態を反映しないので、CLPと仮称する)が除かれた線虫の酵素を利用した点にある。本研究は多酵素複合体の自由な設計に資するため、CLPに関する次の諸点を明らかにした。 (1)CLPの2量体形成:CLPの働きに関する作業仮説は、このドメインの2量体形成を前提にしている。そこで酵母CLPの相互作用を表面プラズモン共鳴法、およびMALDI-TOF法とESI法による質量分析、ならびに超遠心分析法によって解析した。その結果、少なくともその一部が室温の水溶液条件下で2量体を形成していること、その解離常数は10^<-5>M以下であること、が明らかになった。 (2)CLP部分の切断酵素活性の検出と精製:ラット肝ペルオキシソームの破砕液中に、II型チオラーゼのCLP部分を切断する活性を検出した。II型β酸化系の2頭酵素もCLPとの融合蛋白質であり、活性な画分では大部分CPLを欠いているが、ラットII型チオラーゼ(通称はSCPx)を用いたアフィニティー法で部分精製されたCLP切断酵素標品は、2頭酵素には作用しなかった。 (3)線虫のII型チオラーゼの解析:II型β酸化系の試験管内構築の鍵となった線虫のII型チオラーゼが、腸組織のペルオキシソームに局在し、胚の脂肪が消費された後の幼生期に強く発現し、αメチル側鎖をもつ薬剤で誘導されることを明らかにした。これらの結果は、本酵素が間違いなくラットII型チオラーゼの対応物であることを示す。
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