植物ゲノム解析研究分野において、機能遺伝子の迅速な単離方法の開発は益々その重要性が増大している。そこで、研究代表者がこれまでに培った遺伝子単離技術を活用し、遺伝子発現が進行中の細胞領域をマイクロダイセクション法で取得後、cDNAライブラリーを作製し、特定の組織でのみ発現する機能遺伝子の取得を目標とした。今年度は、加圧凍結法による試料中のmRNAの安定性の確認と微量組織からのcDNAライブラリー作製を試み、ライブラリー中のcDNAの解析を行った。 開花後3日目のイネ種子を瞬間凍結し、コンパウンドで固定後切片化し、レーザーメスにより標的細胞周囲を焼き切り、その後レーザーの焦点を変更し特定領域細胞塊のみを打ち上げ、上部に設置したトラップに回収した。この操作を繰り返し、50細胞塊を集め、フェノール抽出により核酸を回収した。Oligo(dT)マグネットビーズでpoly(A)RNAを精製し、cDNA合成後、恒常的に発現しているイネActin I cDNAをPCR法で増幅し、予想される分子量の位置にバンドを確認した。この実験系でmRNAが分解されることなく抽出されていることが確認出来た。 次に、微量組織由来cDNAライブラリーの作製を行った。上記と同様にレーザーメスで調製した100細胞塊よりpoly(A)RNAを抽出し、cDNA合成後、末端にプライマー配列を付加するPCR法によりcDNA断片を増幅した。その後、cDNAをλファージベクターに組み込み、cDNA断片の挿入が確認されたクローンの塩基配列を決定した。葉緑体ゲノム配列由来の配列、既知の遺伝子と相同性を示すクローンが多数認められたが、新規の遺伝子をコードしていると考えられるクローンが15%程度存在した。PCRを介することで、余分なDNAを増幅する欠点はあるが、微量特定細胞由来のcDNAライブラリーを作製することが可能であることが判った。 今後は、出発細胞数を更に微量化し、ベクターおよび形質転換技術を高め、最終的には一細胞由来のcDNAライブラリー作製の可能性が広がった。
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